事業単位の特例
1. 制度の概要
国又は地方公共団体が一般会計に係る業務として行う事業又は特別会計を設けて行う事業については、その一般会計又は特別会計ごとに一つの法人が行う事業とみなして消費税法が適用されます。(法60@)。
これは、主として一般の行政事務を行う一般会計は、課税売上げがほとんどなく、租税収入等を財源とし課税仕入れが行われていますが、一方の特別会計は、水道事業、交通事業等の特別の事業のために設けられ、これらの事業収入等によって課税仕入れが行われていることが多いため、それぞれ会計の内容が異なる一般会計と特別会計を合計して消費税の計算を行うのは、実態に合わないので、一般会計と特別会計ごとに一つの法人とみなして消費税の計算を行うこととしたものです。
したがって、原則として、一般会計と特別会計の間又は異なる特別会計の間の取引についても、課税対象に含まれることになります。ただし、特別会計の中には、一般会計の事業の一環として行われる事業の一部を分離し、特別会計を設けて行う事業があり、この特別会計については、一般会計に含めて消費税法を適用した方が合理的であることから、特別会計を設けて行う事業であっても、専らその特別会計を設ける国又は地方公共団体の一般会計に対して資産の譲渡等を行う特別会計の事業は、一般会計に係る業務として行う事業とみなされることとなっています(法60@、令72@)。そのため、これに該当する特別会計が一般会計に対して行う取引は、法第2条第1項第8号に規定する資産の譲渡等に該当しないことになります。
この、「専らその特別会計を設ける国又は地方公共団体の一般会計に対して資産の譲渡等を行う特別会計」とは、経常的に一般会計に対して資産の譲渡等を行うために設けられた特別会計をいい、例えば、次のような特別会計がこれに該当することになります(基通16−1−1)。
(1) 専ら、一般会計の用に供する備品を調達して、一般会計に引渡すことを目的とする特別会計
(2) 専ら、庁用に使用する自動車を調達管理して、一般会計の用に供することを目的とする特別会計
(3) 専ら、一般会計において必要とする印刷物を印刷し、一般会計に引渡すことを目的とする特別会計
なお、ここで「専ら一般会計に対して資産の譲渡等を行う」とは、その特別会計が行う資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに占めるその特別会計が一般会計に対して行う資産の譲渡等の対価の額の合計額が95%以上である場合をいうことになっています。
2.一部事務組合に係る特例
一部事務組合は、二以上の地方公共団体がその事務の一部を共同して処理するために設けられる特別地方公共団体であり、地方自治法においては、都道府県及び市町村に関する規定が準用され、会計については基本的には普通地方公共団体と同様に考えるべきものとされています(地方自治法284@、292)。
なお、複合事務組合で、地方自治法第287条の2第1項が適用される場合、すなわち、組織市町村の一部のみに係る事務の予算について特別決議の制度を採用している場合においては、経理区分上、特別決議に係る予算を特別会計として分別することになっています。これは、一の地方公共団体につき一般会計はひとつのみ存在するという地方自治法上の原則から、本来は、一般会計として経理すべきところ、組織市町村の違いから経費負担を経理区分上明確にするという目的により、特別決議に係る予算として特別会計にするという事情によるものです。そのため、このような事業で通常一般会計の業務として行われるようなものについては、一般会計として取り扱うこととしています。
すなわち、一部事務組合が特別会計を設けて次に掲げる事業以外の事業を行う場合において、その一部事務組合がその事業につき特別決議の制度を採用している場合には、その事業は、一般会計に係る業務として行う事業とみなされることとなります(令72A)。
(1) 地方財政法施行令第12条各号に掲げる事業その他法令においてその事業に係る収入及び支出を経理する特別会計を設けることが義務づけられている事業
イ. 地方財政法施行令第12条各号に掲げる事業
ロ. 上記以外の法令において義務づけられている事業
(2) 地方公営企業法第2条第3項の規定により同法の規定の全部又は一部を適用している同項の企業に係る事業
(3) 対価を得て資産の譲渡又は貸付けを主として行う事業
この場合において、「対価を得て資産の譲渡又は貸付けを主として行う事業」に該当するか否かの判定については、当該会計の総収入金額に占める資産の譲渡又は貸付けの対価の額が50%を超えるものが該当することになります。
(4) 地方競馬、自転車競争、小型自動車競争及びモーターボート競争の事業
逆に、地方自治法第1条の3第3項に規定する地方公共団体の組合(一部事務組合、全部事務組合、役場事務組合等)が、上記の(3)又は(4)の事業について一般会計を設けて行う場合には、特別会計を設けて行う事業とみなされます。(令72B)
地方公共団体の組合が単一の事業を行う場合には一般会計となりますが、上記の(3)又は(4)の事業については通常特別会計を設けて事業を行っているものであるため、一般会計で処理していても特別会計とみなすこととしているものです。
なお、この規定は、令第72条第2項第3号及び第4号の事業で特別会計を設けて処理している場合に、一般会計とみなされない(令72A)こととのバランスを図ったものです。
3.地方開発事業団の取扱い
普通地方公共団体は、一定の地域の総合的な開発計画に基づく住宅、道路、港湾、水道等の施設の建設、用地の取得、造成又は土地区画整理事業に係る工事を総合的に実施するため、他の地方公共団体と共同して、これらの事業を委託すべき地方開発事業団を設けることができることとされています(地方自治法298@)。
この地方開発事業団が行う事業は特別会計を設けて行う事業として取り扱われることとなります(令72C)。
【留意事項等】
T | 国又は地方公共団体の一般会計に係る業務として行う事業については、次のような特例が設けられている。 | |
(1) | その課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除することができる各種の控除税額の合計額は、課税標準額に対する消費税額と同額とみなす(法60E)。 | |
(注)一般会計において、各種の控除税額の合計額が課税標準額に対する消費税額を上回る場合であっても、その上回る部分について還付を受けることはできない。 | ||
(2) | 国又は地方公共団体の一般会計については、消費税法第9条(小規模事業者に係る納税義務の免除)、第42条(課税資産の譲渡についての中間申告)、第45条(課税資産の譲渡についての確定申告)、第57条(小規模事業者の納税義務の免除の規定が適用されなくなった場合の届出)及び第58条(帳簿の備付け等)の規定は適用されない(法60F)。 | |
U | 法別表第三に掲げる法人(公共法人等)及び人格のない社団等については、「事業単位の特例」の規定は、適用されない。 | |
V | 申告書等の提出名義人 | |
(1) | 国……………………原則として、特別会計を管理する所管大臣 ただし、各特別会計において、所管大臣から特定の機関の長に対し、予算の執行を命ずることとされている場合には、当該機関の長が当該特別会計の代表者となる。 また、支出負担行為担当官等に事務委任した場合には、当該委任を受けた者となる。 |
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(2) | 地方公共団体………国と同様(都道府県知事、市区町村長、事業管理者) | |
(3) | 公共・公益法人等…その代表者(総裁、会頭、理事長等) |